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感動と記憶を刻む「香り」でSPA(スパ)を差別化するには?

次の時代を見据え、経営の中心にブランディングを据えようと試みる企業が増えています。経営状態も悪くなく、安定した成長を続け、確固たる技術力や創造力も持ち合わせている企業が、多様化する次の時代を生き抜くために何をすべきか。それはブランドを将来的にどのように成長させるか、ブランドイメージをどう刷新させるかが重要で、そのためには新たなビジョンを示すためのブランディングの再構築が必要になります。

 

従来のブランディングは、名称、ロゴ、シンボルマーク、シンボルカラーなどの視覚を利用したものが主流でした。しかし最近は視覚だけでは弱くメッセージが記憶に残らないため、視覚要素以外の多様な感覚でブランドに触れる試みを取り入れ、リブランディングに成功した事例が多くあります。

フォーシーズンズ・ミラノの持つ高いブランド力が生む感動

 

Scent Companyは嗅覚を刺激する「香り」を武器にミラノで最も高級なホテルの1つであるFour Seasons Hotelの依頼を受け、ホテル内部とスパの「香り」のブランディングを行いました。

言うまでもなくフォーシーズンズ・ミラノは多くの人にとって憧れの地であり、ラグジュアリーホテルを愛する方にとっては特にここが目的地でもあります。多くのラグジュアリーホテルの中でも、なぜフォーシーズンズホテルが最終目的地として選ばれるのでしょうか?

 

回廊に囲まれたホテルエントランスに足を踏み入れた人のみ得られる心揺さぶられる感情がその理由を物語ります。それは重厚な佇まいや高貴な家具に囲まれことで得られる高揚感、ゲストをリラックスさせる最高レベルのおもてなし、最新のインテリアに身をゆだねる優越感だけではありません。まるで最高峰の山頂に到達したかのような達成感や安堵感。それらは「フォーシーズンズ」がもつ世界屈指のラグジュアリーホテルという、高いブランド力とラグジュアリーな演出が一体化することにより、ゲスト自らの人生を投影させたくなる情動がそうさせるからではないでしょうか。

SPA(スパ)とは五感を取り戻し新たな創造と感動を生む空間

 

フォーシーズンズホテルミラノのSPA(スパ)でも同様の感動が得られます。

SPA(スパ)に入ると、Parisian(パリジャン)という香りがまずゲストを出迎えます。Parisianという名称のとおり、パリのブローニュの森を散策しているような甘いフローラル系の中にグリーンノートの新鮮さを感じる心地よさがSPA全体をやさしく包み込んでくれます。

SPA(スパ)とは、心身を癒し、身体と心、魂のバランスを取り戻す場所。ゲストが日常の忙しさや喧噪から離れ、本能的な情動に自然と身を任せるスペースである必要があります。フォーシーズンズホテルミラノのSPA(スパ)は著名な建築家パトリシア・ウルキオラが設計した異次元の空間。まるで中世のようなアーチ型の天井にウッド素材のモダンなデザインが見事に調和し、グレーとクリームのカラートーンで空間にぬくもりを与えています。ここでは世俗と切り離された時間がゆったりと流れ、あらゆるものから守られる安心感と、上質なトリートメントが日常的な感情を解きほぐしていきます。さらに嗅覚を刺激する「香り」がゲストの五感を研ぎ澄まし、感情の下で眠っている魂を呼び起こしていくのです。

 

フレグランスは、換気システムに隠された最新のディフューザーによってホテル全体とSPAに拡散されるため、サブリミナル効果も期待できます。ゲストは知らず知らずのうちにこの香りにエスコートされ、フォーシーズンズホテルミラノに身を置く感動と共に、記憶に深く刻み込む体験ができるのです。

「香り」のブランディングにおけるプロセスと考慮すべきこと

 

では、具体的に「香り」のブランディングをするには、どのような手順が必要なのでしょうか。2018年4月11日発行の Business Reviewによる香りのブランディングに関する記事 “Inside the invisible but influential World of Scent Branding”.を抜粋してみましょう。

「香り」のブランディングを取り入れるには、まず現存するブランドの存在意義を完全に理解することです。というのも「香り」のブランディングの目的はブランドのDNAを伝え、サポートすることにあります。「香り」がどのようにブランドイメージやメッセージを代弁していくのか?

 

「香り」は単なるアロマとしてゲストの心身にリラクゼーションを与える快楽のためだけでなく、「香り」が嗅覚を通してゲストの感情に作用する科学的効果に目を向ける必要があります。ブランドとして何を伝えたいのかビジョンを明確にすることが、「香り」のデザインを決め、コンテンツとしての科学的効果に繋がるのです。

【香りのブランディングは芸術とサイエンス(科学)のコンビネーション】

 

最初のプロセスでは、ブランドの理念、戦略、個性や価値感のほか、あなたがブランドを通して体験したいと考える感情などを定義する必要があります。これらの考えを文章化して一つ一つ挙げ、さらに次のステップへ進んでいきます。

 

次のステップは上記で挙げたステートメント(文章)を香りに変換する作業です。これは香りのブランディングの専門家と香りの開発を行う香料師が協力し、ブランド独自の香りを開発していきます。

 

ここで注意することはそれぞれの役割分担についてです。例えばオーディオのブランディングを考える場合、マーケティング担当者は直接ミュージシャンに依頼するのは適切ではありません。マーケティング担当者が仕事をすべき相手は、個々のミュージシャンではなく、サウンドの使用や効果に熟知し、客観的立場から全体像を見渡せる専門的な代理店と話をすべきです。つまり、香りのマーケティング担当者も、香りを製造するメーカーではなく、ブランド自身の戦略を「香り」を通してディレクションできる専門家と作業する必要があるのです。

 

このような役割分担が必要な理由は、香りのブランディングの主要要素が香りの「開発」と「拡散」とに分類され、それぞれ「芸術」と「科学」という異なる分野のコンビネーションとして捉えるからです。香りを創造する芸術的分野と、香りの拡散で感情や記憶に与えるサブリミナル効果が期待できる科学的側面を、効果的な組み合わせにするためには、アーティストとディレクターという異なる役割分担が必要なのです。

 

香りは嗅覚を通して人間の記憶と本能的な情動に影響を与えることはよく知られています。例えば、清潔感を表現したければ、グリーンシトラス系を選択しますし、力強さや活力を伝えるためにはスパイシーな香りが適しています。力強いビジョンを伝えたいのに秩序をイメージするシトラス系を用いると、ブランドのビジョンと香りに違和感が生じ、ブランドを記憶にとどめる効果が薄まる可能性があるのです。そのため強く記憶に残すためには、香りとその香りが持つ効果とブランドイメージが一体化することが望ましいのです。

【効果的な香りの拡散方法とは】

 

次に決めることは、香りの拡散方法です。先ほど挙げた、ステートメントの内容を振り返りいくつかの質問に答えてください。

  • 香りを挨拶の一環として演出するため、拡散エリアはメインエントランス中心に考えますか?
  • スペース全体、または人が多く行き交うエリアのみ包み込む香りが欲しいですか?
  • 24時間いつでも、または、特定の時間帯のみで香りを拡散させたいですか?
  • 背景として漂うような淡い香りがいいですか、それともアクティブで力強い主張のある香りがいいですか?

これらの質問に答えが出れば、ディフューザーが理想的な場所に設置できるかどうかを判断し、オン/オフタイマーとユニットを調整します。

 

こうして香りの開発と拡散の作業が終われば、あとはゲストの反応を待つだけです。香りのブランディングが成功したかどうかは、ブランドロイヤリティ、商品の信頼度、販売数量、価格/価値の認識などが高まったかどうかを元に判断することができます。

【香りの製品化の成功例】

 

香りのブランディングで開発した商品の成功例を見てみましょう。

香りのブランディングを行ったホテルに、その香りを注入した20,000本のキャンドルを出荷したのですが、リリースやWEB告知などで商品認知が高まったおかげですぐに完売しました。その後、キャンドルのサイズ展開を新たに2つ増やし、さらにルームスプレーも加える提供にまで拡大しています。このように、香りのブランディングはブランドのイメージアップだけでなく、製品化の機会を作り、収益源の増加を生む結果になったのです。

混沌としたマーケットの中で生き残ることがますます困難になっている昨今、あなたのブランドが記憶にも心にも響くよう差別化するにはどうすればいいか。

「香り」はあなたのゲストに対して、より強力な印象を残し、リラクゼーションを与え、記憶に刻むお手伝いができます。また香りから波及する様々な恩恵、顧客に与える多幸感だけでなく、ブランドにとってのイメージアップや新たな商品化の機会など、ビジネス展開を牽引する役割になるかもしれません。あなたのブランドをどのように変えるのか。「香り」はあなたのブランドの方向性に寄り添い、力強くサポートしていくパートナーになるでしょう。